背中越しの春だった
結局うちのクラスは、学年最下位、全体順位でもビリ前という、

散々な結果でスポーツ大会を終えた。


スポーツ大会が終わると、あとはもう夏休みになるのを待つばかり。

学校中がどこか浮かれた、ふわふわした雰囲気に包まれている。

ちなみに、貧乏な公立高校である我が柿坂高校は、もちろん教室にクーラーなんて完備されていない。

おかげでこの季節、生徒は皆ウチワ片手に校舎内の少しでも涼しいところを求めてさまよい、

特に男子には素足にサンダル履きで登校する者が続出する。

このユルさが、いかにも柿坂高校だ。


私もその校風にのっとって、パタパタとウチワで顔を仰ぎながら廊下を歩いていたら、

二人の女の子に囲まれている山本に遭遇した。

モテてんのかな、と思って通り過ぎようとしたら、どうも様子が違っていて、

女子たちに必死で頼みごとをされ、山本は困惑しているようだった。


「お願い! なんでもいいからさ。お祭りとか、イベントとか」

「夏休みに一回でもいいから、藤に会いたいんだよ~! 頼むよ、山本」


どうやら彼女たちは、山本に藤に会う口実を作ってほしい、と頼んでいるらしい。

山本は困った顔で、しかしきっぱりと首を振った。


「いや、それは無理だよ」

「どーっしても、ダメ?」

「だからさ、俺にそんなこと言われても困るよ。

そうゆう、変にややこしいこと、俺も嫌いだけど藤もイヤだと思う」


山本の穏やかな口調だけれど厳しい言葉に、二人はがくっと肩を落とした。

それを見ていると、なんだかちょっと切なくなった。

真っ向から誘う勇気があったら、とっくにそうしているだろう。

だけどきっと笑ってかわされてしまうだろう、と予想できてしまうから。

それで最後の手段として山本に頼りたくなってしまう気持ちは、わからないでもなかった。
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