背中越しの春だった
それでつい、私は余計な口を出してしまった。


「藤に会いたいなら、補習に出れば?」


いきなり口を挟んできた私に、二人の恋する乙女たちは一瞬驚いた顔をして、

それからぱっと目を輝かせた。


「えっ、藤、補習出るの?」

「たぶん。あいつ数学の課題、二回くらいサボってたから」

「ほんとに!? そっかぁ……ありがとう、槙野さん!」


マジありがとう、と何度もお礼を言って、嬉しそうに駆けていく二人の背中を見送り、

私は複雑な気分で歩き出そうとした。

そこでふと、山本と目が合う。


山本は、じーっと私を見つめていた。

奇妙なものを見るような、しかしどちらかと言うとおもしろがっているような、

そんな目つきだった。


私はあまりにまじまじと見つめてくる山本の視線の意味が気になりながらも、

そこで授業の始まりを告げるチャイムが鳴り始めたので、あわててその場を去ったのだった。
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