背中越しの春だった
夏休みが近付くにつれ、藤はますます無邪気に、楽しそうに振る舞っているように思えた。


「俺牛乳!」

「俺オレンジ~」

「げっ、誰だよ緑茶とか入れたヤツ!」


昼休み、藤たちは賑やかに物理室の冷凍庫で凍らせたらしい飲み物の紙パックを奪い合っていた。

男子たちは子供のようにはしゃいで、ハサミでパックの上を切り、

スプーンでそれぞれの手作りアイスを食べ始める。


「うひゃー、つめてー!」

「うまい!」

「藤、ちょっとそのミルクティーちょうだい」

「やーだよ」


スプーンをくわえて笑う藤は、やっぱり真夏の大きな太陽が似合う。

そんな楽しげな藤を、「藤片思い同盟」の面々が熱く見つめていた。


「藤、超カワイイんですけど……」

「スプーンになりてぇー」


――あのクラス親睦会の帰り以来、美雪はすっかり石本さんたちと意気投合していた。

そのついでに、私もちょっと石本さんたちと仲良くなっていて、

彼女たちがかなりおもしろくてイイ子たちであることを知り始めていた。

石本さんが、下敷きで顔をあおぎながら、真面目な顔で言う。


「藤がモーホーっつう可能性は?」

「イヤ、中学では彼女いたらしいし。そもそも山本には今彼女いるし」

「相手は山本確定かい」

「それよりまずは夏休みだよ、夏休み」


どうやら真剣に悩んでいるらしい女子たちは、ここでくるりと私を振り返った。

石本さんの顔に、にこっと笑みが浮かぶ。


「ねー槙野さーん。スポーツ大会の打ち上げしたいよねー」

「夏休みに、一回はクラスで集まりたいよねー」

「もちろん、クラス全員でねー」


……どうやら、今回山本の代わりにターゲットにされたのは、私らしい。

山本のようにキッパリ拒否することなどできるわけもなく、

私は笑顔の脅迫に屈して、花火大会を提案するハメになったのだった。
< 48 / 68 >

この作品をシェア

pagetop