背中越しの春だった
10、クラス委員
終業式。


私は予想通りの可もなく不可もない成績表を受け取り、

二年の一学期を終えた。

教室の窓の外には、夏本番の大きな太陽。

いっそ潔いくらいに、暑い。

私の前の席は、もうすでにカラだ。

十分ほど前に、友人たちに囲まれてにぎやかに帰って行った。

その思いきり楽しそうな笑顔を思い出して、

私は思わず微笑んでしまう。


美雪やクラスメイトたちと夏休みに何度か遊ぶ約束をして、

昇降口で別れた。

私はこんな日まで日直で、

今学期最後の日誌を職員室に届けなければならなかったのだ。

まったく、とことんツイてない女だ。


私は蒸し暑い廊下を歩きながら、ぼんやり考える。

なんだか今年の春は、やけに終わるのが早かった気がする。

毎年春は一番待ち焦がれるわりに一番早く去ってしまう季節なんだけど、

今年は特にそうだった。

それはたぶん、きっと、藤がいたからだろう。

藤に恋をして、季節をしみじみ感じる余裕もなく、

春はあっという間に過ぎてしまった。

一番美しい季節を、藤が無邪気な笑顔で連れてきて、

そしていたずらっぽく笑いながら、さーっと連れ去ってしまった。

……と、ガラにもなくドリーミーなことを考えて、私は一人頬を赤くする。

今年の夏は、いったいどんな夏になるんだろう。


城田さんの机に日誌をおいて職員室を出ると、

私はちょっと迷ってから、結局その期待に勝てず物理室へと向かった。

もしかしたら藤がいるもかも、という抗いがたい期待。

夏休みは長い。

花火大会で一度は会えるとは言え、

最後にもう一回顔を見ておきたかった。
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