背中越しの春だった
静まり返った廊下からそっと物理室の中をのぞくと、

そこには藤の姿があった。

藤はいつものように窓際の机に腰掛けて、

ぼんやり外を眺めている。


その横顔は、暗く拒絶していた。


すぐにわかった。

これは、独りになりたいときのカオだ。

伏せられた目も、膝を抱えた細い腕も、

美しいラインの首筋も、深い孤独に包まれている。

薄暗い物理室で、藤はぴくりとも動かず、座っていた。

私はその場を動けずに、突っ立っていた。


しばらくして藤は私に気づき、

いつものように笑いかけて見せた。

そのソツのない笑顔を見て、私はあわてて軽く手を振り返し、

その場に背を向けた。

こうゆうときはできるだけ、そっとしておいてあげたいと思う。


ひとつ息をついてから歩き出すと、

後ろから小さな笑い声が聞こえた気がした。


「じゃあね、マッキー!」


うれしそうな、明るい声が背中に降ってくる。


「じゃあね、藤!」


私も大声で返事をして、歩きだした。
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