背中越しの春だった
八時を過ぎてすっかりあたりが濃密な闇に覆われると、

花火はいっそう盛り上がった。

藤は何本もまとめて花火に火をつけ、

とんでもない花火のかたまりを作って遊んでいる。


「聖火リレー!!」

「うわっ、あぶねぇ!」

「藤、こっち来んな!!」


相変わらずの無邪気なはしゃぎっぷりに、

「藤片思い同盟」の皆様をはじめ、女子が熱い視線を送る。


私はと言うと、打ち上げ花火の点火係に任命され、

次々と火をつけて回っていた。

誰も怖がって火をつけたがらないので、

仕方なく私が引き受けたのだ。

まったく、毎度ながらこんな役回りばっかり。


噴き出すタイプの花火に火をつけると、思った以上に早く火が噴き始めて、

私はあわててその場から離れた。


「依子ちゃん、大丈夫?」


美雪が駆け寄ってくる。

ぜんぜん大丈夫と笑って見せて、

私は火をつけたばかりの花火を見つめた。

シュシュシュ……と音をたてて、

色とりどりの火花が空に向かって噴射される。

パラパラと細かな火花が落ちる。

ふっとそれがピンク色に変わった瞬間、私は思わず息をのんだ。


桜みたいだった。

漆黒の闇の中、光る花びらが降ってくる。


「桜みたいだね」


いつの間にか私の隣にいてそう言ったのは、藤だった。

驚いて顔をあげると、

にやっと笑って藤は一番大物の打ち上げ花火を私の前に差し出す。


「これで最後だよ、マッキー。仕掛けにいこーぜ」


いつの間にか、あんなにたくさん買った花火はすっかり底をついていた。


「それじゃ、危ないからみんな五メートル以上離れて!」

「最後の花火だからね~」


私と藤は、二人で公園の端に花火を置きにいった。
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