背中越しの春だった

「ちょっと、ちゃんと運転できるの!?」

「バカ、一平にスクーターの乗り方教えたの俺だぞ!」

「ぜんっぜん信じられない」


口ではそう言ったものの、

確かにスクーターにまたがった藤の動作は手慣れていて、

なかなかサマになっていた。

うわースクーターで二人乗りだ……と、

思わず私はドキドキしてしまう。


小さな藤の背中を見つめて、

その細い腰に手をまわしていいものかどうかためらっていると、

そんな私の気持ちを見透かしたように、藤はあっさり言った。


「あ、ちゃんと後ろにつかまるところあるから。

俺の体につかまってきたら、振り落とすからね、容赦なく」


「……はい」


私はおとなしく返事して座席の後ろについた手すりにつかまり、

スクーターは滑らかに発進した。

見慣れた景色が、すーっと流れだす。

そのスピードが新鮮だった。

涼しい風が、ヘルメット越しに私の髪を揺らす。


すっごい、気持ちよかった。


私は、藤のにおいを大きく吸い込む。

顔をあげるとそこには突き抜けるように青い空と、

絵にかいたような入道雲が広がっていた。

クリームソーダみたいだね、と藤が笑う。

藤の小さな背中を見つめながら、

まるで空を飛んでいるみたいだ、と思った。
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