背中越しの春だった
学校から海までは、

スクーターで十五分くらいの距離だった。

一年生のときに「海に近い学校」というキャッチフレーズに騙されて、

歩いてこの海岸を目指したことがあるんだけど、

とても歩ける距離じゃなくて、

途中からギブアップしてバスに乗ったことを思い出す。

今日はなんだか、

十五分の道のりがあっという間だった。


「うみだぁーっ!!」


到着するなり、ヘルメットを脱ぎすてて、

藤が砂浜へ駈け出した。

私も慌ててヘルメットをとり、藤のあとを追う。

海面はキラキラと太陽光が反射して、目が痛いくらいまぶしい。

藤ははしゃいで靴を脱ぎ、学生ズボンをまくりあげる。


「マッキーも、早く早く!」


無邪気にせかされて、私は思わず笑ってしまった。

まるで子供みたいだ。

マッキーマッキーマッキーとうるさく催促されて、

ちょっと待ってよと私も慌てて靴とハイソックスを脱ぎ、

私たちは波打ち際に向かった。


「てゆーか、砂、熱ッ!!」

「足の裏が焼けるー!!」


熱い砂の上をぴょんぴょん駆け抜けて、冷たい海に足を入れる。

白い波がさらさらと足元で揺れて、くすぐったくて気持ちいい。


「超きもちいー!!」


藤は制服が濡れるのも構わずに、どんどん海へ入っていく。


「ちょっと藤、またカゼひくよ!」

「だーいじょうぶ!」

「濡れちゃうよー!」


慌てて声をかけても、藤はざぶざぶ波をかきわけて行ってしまう。


「マッキーもおいでよ~!」


藤が私を振り返って、大きく手を振る。


「絶対、イヤ!!」

「俺が溺れたらどーすんだよっ」


見殺しにする気かぁ!?と笑いながら、藤はどんどん沖に進んでいく。

その小さな体は今にも海に吸い込まれそうで、

ヘタレの藤のことだから本当に溺れてしまうんじゃないかと、

一瞬イヤな予感がした。

海面はもう、藤の膝上あたりまで迫っている。
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