背中越しの春だった
追いかけたものかためらっていると、

突然うわぁっと小さく叫んで、藤の姿が波の中に消えた。

心臓がきゅっと縮む。


「藤!!」


私は慌てて藤が沈んだあたりに駆け寄った。

泳ぎはあまり得意じゃないけど、無我夢中で波をかきわける。


波に足をとられながらも必死で藤の姿をさがすと、

藤は海の中に座り込むようにしていた。

うつむいて、泣いているように肩を震わせている。


「藤、どうしたの!? 転んだの? どっか痛い?」


抱き起そうと藤の傍に膝をついて顔を覗き込み……

ようやく、藤が笑っていることに気付いた。

騙された!!


「まっ……マッキー……どんだけぇ~」

「……藤!!!!」

「おなかいてぇー……」


どんだけ心配症なんだよ、そう簡単に溺れるかよ、

と苦しそうに笑う藤に、差し出したままの手をぐいっとひっぱられ、

私は海の中に引きずり込まれた。

ざぶっと頭から潮水をかぶって、私は思わず悲鳴をあげる。


「うわぁっ!!」

「これでマッキーもずぶ濡れ~」

「藤ィィ!!!」


なにすんのよ、カゼひいたら責任とってよね、と喚く私を、

藤は指さしてケラケラ笑う。

その子供のような笑顔を見て、

私はついつられて笑ってしまいそうになる。


藤の笑顔は本当に無邪気で、楽しそうで、

まぁいっかぁって気にさせるから、トクな奴だと思う。
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