背中越しの春だった
私は体を起して、

上から藤の顔をのぞきこんだ。


「……藤?」


藤は目を閉じたまま、動かない。

唇がわずかに開いている。

私は吸い込まれるように、顔を近づけていく。


藤は……たぶん、私の気持ちを知っている。


自然と唇を重ねようとしたその瞬間、

藤の膝が私の下腹に直撃した。


「強姦!!」

「……っ……!!」


藤に蹴られたコカンのあまりの痛さに悶絶して、

私はその場に倒れこむ。

藤は起き上がって、そんな私を指さして笑った。


「マッキー、知ってる!? 同意のない性交渉は、

男女関係なくゴーカンっていうんだよ!」


私は痛みをこらえてなんとか体を起こし、

額を砂にこすりつけて、そのまま土下座した。


「ほんっとーに、申し訳ありませんでしたっ!!!!」

「反省してる~?」

「してます!!」

「アイスおごってくれる~?」

「おごります!!」


やったーラッキーと屈託なく笑う藤を前に、

私はただうなだれるように頭を下げて、

とても顔を上げられなかった。


死ぬほど恥ずかしかった。

あまりに無防備な藤の様子に、

自然と自分の持て余した気持ちをぶつけようとしてしまった。

すごく卑怯だったと思うし……本当に、恥ずかしい。


「ほんとに……ごめん」


力なく呟き、うつむいたままの私を、

藤はしばらくジッと見下ろしていた。

そして、ふいっと私の前からいなくなった。

そのまま、離れていく気配がする。
< 63 / 68 >

この作品をシェア

pagetop