背中越しの春だった
12、初秋
あの海の日以来、

私たちの関係になんか変化があったかと言えば……

まぁ、たぶん別にない。


「マッキー、だめぇ?」


私の机に肘をついて手を合わせ、

前の席から身を乗り出してジーッと私を見つめてくる藤のつぶらな瞳に、

私は冷たく言い放った。


「ダメに決まってんでしょ。宿題は宿題!!

家でやって来るから“宿題”っていうのよ!!

今日じゅうにやってもらうからね」


白紙のまま提出しようとした英語のプリントを、

藤の手に押しつけるように投げ返すと、

藤はたまにはいいじゃーんと口をとがらせる。


「どこが“たま”だよ! これでサボったの何回目?」

「今日だけは見逃して! 次からはやってくるからさ」

「あんた、また補習受けたいの? 次はかばわないからね、私」


思い切り突き放すと、オニのように冷たいなマッキー、

と藤はうれしそうに笑った。


「笑いごとじゃないからっ」

「わかった! じゃあ放課後、やるよ。やります」


だから終わるまでつきあってよ、と藤が甘えてくる。

ここぞとばかりに、黒い瞳がキラキラ明るく輝いている。

私はため息をついて、渋々うなずいた。

さすがマッキー、と藤は屈託なく笑う。


その笑顔を見ながら、私はしみじみと考えた。

確かに、私たちの関係は大きく変化したりはしていない。

それでもなにか変わったところがあるとすれば……

私は藤への思いを自分の内側だけで処理できるようになり、

藤は、私に甘えるようになった。
< 65 / 68 >

この作品をシェア

pagetop