背中越しの春だった
放課後。
約束通り、私は藤が宿題のプリントに取り組むのを、
物理室で見守っていた。
窓の外には、サッカー部の姿が見える。
夏の大会では、どうやらベスト八まで進んだらしい。
山本は、レギュラーだ。
「ちょっとマッキー、辞書貸して」
「はいはい」
バックから英和辞書を取り出して机に置くと、
藤は目を丸くした。
「いまどき紙の辞書なんだ!」
「うるさい」
「マッキー、ビンボーキャラでもイケるね」
いっぱいキャラがあってうらやましいよ、
とからかってくる藤の頭を、軽くはたいておく。
藤の問題を解くペースは速い。
どんどんシャーペンが、
空欄に正しい答えを書き込んでいく。
もしかしたら藤ってものすごく頭いいのかも、とちょっと思った。
物理室はひんやりと涼しくて、肌寒いくらいだった。
秋の気配を感じる。
小さく身震いして、藤は半そでからのぞく細い腕を軽くさすり、
そしてにこっと笑って顔をあげた。
「秋めいてまいりましたねぇ」
「……そうですねぇ」
「あったかそうなもん、着てるじゃん」
……結局、抵抗もむなしくカーディガンを奪われてしまった。
私も、カーディガン脱ぐと、半そでなんですけど!!
一気に冷えていく腕をさすりながら、
なんで私はこんなワガママでサドっぽい男が好きなんだろう、
と自問自答していると、
少し小さく見える私のカーディガンを着た藤が、
無邪気に笑った。
「ねー秋になったらさ、ここにポットとか持ち込もうよ。冬はこたつとミカンね」
「勝手に私を物理部員にしないでくれるかな」
副部長にしてあげる、と藤が笑う。
藤は笑うと、きゅっと眼尻が下がって、
大きな黒い瞳がキラリと光って、
少し肩をすくめるようにする。
それは何度見ても、
私に新鮮な感動を与えるものだった。
もう二度と、藤みたいな人には出会えないだろう。
こんなふうに笑う人と。
約束通り、私は藤が宿題のプリントに取り組むのを、
物理室で見守っていた。
窓の外には、サッカー部の姿が見える。
夏の大会では、どうやらベスト八まで進んだらしい。
山本は、レギュラーだ。
「ちょっとマッキー、辞書貸して」
「はいはい」
バックから英和辞書を取り出して机に置くと、
藤は目を丸くした。
「いまどき紙の辞書なんだ!」
「うるさい」
「マッキー、ビンボーキャラでもイケるね」
いっぱいキャラがあってうらやましいよ、
とからかってくる藤の頭を、軽くはたいておく。
藤の問題を解くペースは速い。
どんどんシャーペンが、
空欄に正しい答えを書き込んでいく。
もしかしたら藤ってものすごく頭いいのかも、とちょっと思った。
物理室はひんやりと涼しくて、肌寒いくらいだった。
秋の気配を感じる。
小さく身震いして、藤は半そでからのぞく細い腕を軽くさすり、
そしてにこっと笑って顔をあげた。
「秋めいてまいりましたねぇ」
「……そうですねぇ」
「あったかそうなもん、着てるじゃん」
……結局、抵抗もむなしくカーディガンを奪われてしまった。
私も、カーディガン脱ぐと、半そでなんですけど!!
一気に冷えていく腕をさすりながら、
なんで私はこんなワガママでサドっぽい男が好きなんだろう、
と自問自答していると、
少し小さく見える私のカーディガンを着た藤が、
無邪気に笑った。
「ねー秋になったらさ、ここにポットとか持ち込もうよ。冬はこたつとミカンね」
「勝手に私を物理部員にしないでくれるかな」
副部長にしてあげる、と藤が笑う。
藤は笑うと、きゅっと眼尻が下がって、
大きな黒い瞳がキラリと光って、
少し肩をすくめるようにする。
それは何度見ても、
私に新鮮な感動を与えるものだった。
もう二度と、藤みたいな人には出会えないだろう。
こんなふうに笑う人と。