背中越しの春だった
秋の始まりを告げるように、

だんだん速度を増して日が傾いていく。

ふと、さっき山本に会ったことを思い出し、

私は藤の後頭部に話しかけた。


「そういえば、さっき山本に会ったよ」

「え?」


きょとんとした目をして、藤が顔をあげる。


「スクーター勝手に使ったことで、超イヤミ言われた。

ちゃんと謝っといてよ。山本、めっちゃ怒ってるんじゃない?」


マジで、と藤が嬉しそうに笑う。


「大丈夫だよ。あいつ、昔から鋭いくせに鈍感っていうか、

感情の起伏が少なくてさ、滅多に怒ったりしないから」


「そうなの?」


そうそう、とシャーペンを動かす手を止めて、

藤は山本との腐れ縁について楽しそうに語ってくれた。


なんでも二人は家が近所で、

その上遠い親戚にあたるらしく、

親同士も仲が良くて、

兄弟のように育てられたらしい。


「ちっちゃい頃は俺のほうが一平の世話をしててさ。

昔はあいつも可愛くて、俺のほうが背も大きかったし、喧嘩も強かったし。

いつもはるちゃんはるちゃんって、俺のあとを追い回してたんだよ」


「へぇー、意外だな」


山本の話をする藤はとても楽しそうで、

その掛け値なしの笑顔に思わず私も微笑んでしまったのだけど、

本当はちょっとだけ落ち込んでいた。


これはもう、目指せ山本なんて、不可能なはなしだ。


窓の外では、山本がまじめな顔でボールを追っている。

藤は頬杖をついて、穏やかな表情でプリントに向かっている。

なんだか、私だけ場違いなような、仲間外れな気分だった。

今、藤のすぐ近くにいるのは私なのに。


私はちょっとおもしろくない気分で、

藤の揺れる前髪と、シャーペンの動きを見つめていた。
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