背中越しの春だった
その一言で、あっさりその場はまとまった。


「あ、じゃあ私クジ作る!」

「アミダにする? 普通のクジ?」

「ここにティッシュの空き箱あるし、普通に引くクジでいいんじゃね」


今までのくだらないやり取りはなんだったのか、というくらいに簡単に話が転がって、

気がつけば藤の席の周りに人が集まって、クジづくりが始まっていた。


藤の人を巻きこむチカラを目の当たりにして、私は思わず真剣に感心してしまった。

藤って結構スゴイんだ。


当の本人は、楽しそうに「ハズレ」「当たり」が書かれたクジを鶴の形に折って遊んでいる。


「それ全部鶴に折るの!? めんどくさいよ」

「いいじゃん、かわいいじゃん」


友人に突っ込まれてケラケラと笑う邪気のない横顔を見ていると、

なるほどなぁ、私ももうちょっと若かったら(?)惚れてたかもな、なんて思ってしまう。


私は身を乗り出して、藤の背中を突っついた。

折りかけの鶴を手にして、藤が振り返る。


「ん?」

「私も手伝うよ。鶴折るの」

「おー、さんきゅ、槙野」


軽く笑って、藤はクジの紙束を私に差し出した。

まるでくもりのない、子供のような笑顔だった。



――それが、私に向けられた初めての笑顔で。


そして、私が何に代えても守りたいと願うようになる笑顔。
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