【完】君に贈る歌
「ただいま。珍しいね二人が揃って・・・」
玄関にあがり、ダイニングの扉を開けると目の前に広がったのはひどい光景だった。
皿は割れてテレビにもヒビが入っている。
花瓶も落ち床はびしょぬれ。
近くには母さんが四つん這いになりながら泣いている。
その横で息を荒げながら俺を見つめていたのは父さんだった。
俺は即察した。
この状況が一体何を示しているのか。
「・・・帰ったのか」
重い口を開け父さんが俺に話しかけてきた。
俺は何も答えず、目の前に落ちている皿の破片を片づけ始めた。
「うっ・・・うぅ・・・」
皿の重なる音と母さんのすすり泣く声だけが部屋の中に響く。
父さんは気まずそうにソファに座った。
俺はそれを見て、重ねた皿をゴミ袋へ入れ父さんに向き直る。
「珍しく二人が揃ってると思ったらこれか。・・・いい加減にしなよ」
「・・・翔太!その言い方は・・・なんだ!」
「迫力にかけるよ父さん。いつもいつも仕事ばかり。家庭なんて見向きもせずに没頭してさ。・・・いい加減母さんが辛いって思ってたの気付けよ」
「なっ・・・!!」
それを聞いた父さんはソファから立ち上がり俺に近づこうとする。
母さんは慌ててそれを止めた。
「あなたやめてっ・・・。翔太の言うとおりよ・・・。私は・・・」
俺は母さんの言葉を遮るように言葉をつけたす。
「言っとくけど母さんも母さんだからね。父さんが構ってくれないからって浮気していいとでも思ってたのかよ。俺の気持ちも知らないで」
「・・・ごめ、ごめんなさいっ」
母さんは俺に何度も謝り始めた。