【完】君に贈る歌

一度病室に行く道を間違えながらも、ようやくたどり着いた。

"立花桔梗"と書かれた病室を見つめながら、俺は大きく深呼吸をする。




落ち着いた後、俺は扉に手をかけゆっくりと開けた。




そこにいたのは長い黒髪の立花ではなく、髪が肩まで短くなった立花がいた。


窓の外を見つめる横顔はとても切なげだった。

俺はしばらく声をかけることもできずその場に立ち尽くすだけ。



第一声が出てこない。

声を発するだけで緊張する。



もう立花に会わないでいたのはどれくらいだろうか。





立花はそんな俺に気付いたのか俺の方を見て驚いていた。


そして急に大粒の涙を流し始める。



「えっ・・・ちょっなんで」


慌てて近くにあったティッシュを数枚取り、立花に差しだす。


それを見て立花は余計に泣き始めてしまった。




俺にはどうすることもできず、そんな立花を見ていることしかできないでいた。



「・・・」


泣きながらノートを枕の下から取り出し、何かを書き始める立花。



そしてすっと差し出されたノートを俺は遠慮がちにもらう。




『どうして来たの』



そう一言だけ書いてあった。
< 104 / 150 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop