【完】君に贈る歌
家に帰りたいとも思えず、近くの公園に立ち寄る。
少し肌寒いが俺は気にしなかった。
風に揺られているブランコに座り、右手で持っていたノートをめくる。
出だしは俺と立花の病院で会った時。
長い長い俺への想いが書いてあった。
そしてまた一ページめくる。
そこには俺が見られなかった立花の姿が見えてきた。
俺が見舞いに来なくなって不安になってきている時。
『あのね、芽衣子ちゃん。翔太君どうしてるかな?』
『元気なら良かった』
『やっぱり私に会いたくないのかな』
圭介から告白されて戸惑っている時。
『すごく、すごく嬉しいけど私は翔太君が好き』
『小沢君は素敵な人だからもっと他にいい人がいると思うなぁ』
『小沢君・・・』
圭介と付き合うと決めた時。
『私を好きでいてくれてありがとう』
『よろしく、お願いします』
『うん。髪の毛切るつもりだよ。理由は・・・なんとなくかな』
そして、端っこの方に殴り書きのようなものもあった。
『私のバカ』
『小沢君に失礼』
『翔太君会いたいよ』
『もう一度だけ触れてほしい』
「立花・・・」
俺はそのノートを閉じてそのまま抱きしめる。
ふわっと立花を抱きしめた時の匂いと同じ香りがしたような気がした。
俺は今、立花に触れているんだ・・・。