【完】君に贈る歌
◇不安
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「どうして浮かばないんだ・・・っ」
俺はいつもとは違うカラオケ店で一人頭を抱えていた。
今はメロディも、俺自身の歌声もほぼ完璧に近くなってきた。
なのにたった1フレーズ。
最後の歌詞がうまく当てはまらない。
何度も書いては消しての繰り返し。
ハミングで音程がいくら取れたとしても、歌詞が浮かばなければ意味がない。
焦れば焦るほど時間は迫ってくる。
「くそっ」
俺はまた持っていたペンをベッドに投げ捨てた。
これがもう三日も続いている。
そして・・・どんなに気分転換をしても襲ってくる幻覚と幻聴。
俺は一人になってから何度も悪夢を見るようになった。
『どうして、あたしじゃなくて、あの子なの?』
目を閉じれば瞼に浮かんでくる。
『ねぇ、翔太どうして?』
立花しか見えてなくて薄れていた俺の罪。
忘れるつもりはなかった。
だけど立花がいて、許されたつもりになってしまった自分がいた。
それを阻止するために立花を傷つけたのに、結局は意味がなかった。
俺は無駄に立花を傷つけてしまった。
それに便乗して罪を無かった事にしようとしたのは、もっと最低だ。
どれだけあがいても俺はやっぱり自らの罪からは逃れられない。