【完】君に贈る歌
『立花ちゃんと幸せに。もうこれ以上さやかのことで苦しまないで』
そのメールを最後に、もう何も届かなくなった携帯。
静かに携帯を机の上に置き、一度深呼吸をする。
そしてすぐに歌詞を書いている紙に向きなおした。
「・・・」
俺は無言で涙を流しながら、目の前の紙をぐちゃぐちゃに丸めてゴミ箱に捨てた。
「俺には、歌詞を覚える必要なんてない。心で、気持ちで歌えればそれでいい」
本当はただのやけくそなのかもしれない。
本来ならそんな事あってはならない。
でも俺は決めたのだ。
歌は魂。
自分自身の想いから作られる。
だったらその場で浮かんだ気持ちを歌えばそれでいいだろう。
もちろん全てをかえるわけではない。
俺の作った歌詞をベースとして歌うんだ。
それで、もしも俺の心が審査員に伝わらなかったらそこで終わり。
オーディションの時点で俺は負けたことになる。
そうなると例え、立花がテレビを見ていてくれたとしても俺の今までの練習が無駄になるだろう。
「さやか、教えてくれてありがとう」
俺は理性を取り戻し、あのメールが決してさやかからのメールではないと感じ取った。
でもあれは"さやか"からのメールだと思っておこう。