【完】君に贈る歌
小沢君はあたしの考えをよそに、何かを携帯に打ち込んでいた。
『翔太、もう大丈夫だよ』
画面を覗き込むとそう書いてあった。
これであたしは小沢君が何をしようとしているかなんとなく把握できた。
「"さやか"さんになるって・・・そういうこと?」
「そう。・・・これで電源切られてたら完璧送っても意味無いだろうけどな」
本当に"さやか"さんの幽霊がいたなら、電源が切られていても届くだろうけど・・・。
そんな馬鹿なことあり得ない。
でも何故か大丈夫。そんな気がした。
ふと気付くと、すぐに小沢君は何かをまた携帯に打ち込んでいた。
『立花ちゃんと幸せに。もうこれ以上さやかのことで苦しまないで』
明らかに少しだけおかしい文体。
"さやか"さんになるんだったら、こんな第三者視点じゃ駄目なはずなのに。
「小沢君?送るの待っ・・・」
あたしが言うよりも先に小沢君は送信ボタンを押していた。
「・・・どうして?小沢君」
「"さやか"になるなんて嘘。"さやか"のせいにしてたけど、翔太がいなくなったのはきっと───」
ああ・・・。
小沢君は・・・。
「俺、また失恋ってことだよな。・・・情けねぇなぁ笑」
「情けなくなんか、ないよ」
小刻みに震えている小沢君の背中。
あたしはその背中をぎゅっと抱きしめた。
「あたしがいるよ」
まだ、代わりになんてなれないだろうけど。
小沢君の傍にいたい。
・・・ただそれだけ。