【完】君に贈る歌
翌日。
とうとう本番の日がやってきた。
朝も早くから父さんと母さんがネカフェまで迎えに来た。
昨日「別に迎えになんてこなくていい」と言ったのに。
「練習するんだろう?カラオケ店でいいのか?」
父さんが運転席でそう言う。
助手席には母さん。
俺は後部座席に乗りながら「ああ、うん」と答えた。
「翔太の歌か、思えば聞いた事ないな。一緒に風呂で歌って以来か?」
「そんな事覚えてないよ俺」
「ふふっ私は聞こえたわ。翔太あまり上手く歌えてなかったのよね」
「ああそうだよ。俺は音痴だったの」
こんな風に三人で過ごせるようになるなんて思ってもいなかった毎日。
なんだか不思議な気分だ。
「翔太」
「ん?何?父さん」
「俺な、余りに余った有給を使おうと思うんだ」
「え」
「今まで本当に仕事ばかりだったからな。どこかに旅行でも行こうって母さんと話してるんだよ」
照れくさそうに話す父さんと、嬉しそうな顔の母さん。
「いいと思う。・・・三人で行こう」
俺はそう言ってもう一度家族が始まるんだと実感した。