【完】君に贈る歌
聞きなれた曲。
俺はスタッフに持たされていたマイクを口の前へと持っていった。
会場を埋め尽くす観客が俺に注目している。
今俺は目標の場所に立っていた。
カメラが何台も俺をとらえている。
あのカメラの向こう側に立花がいるんだ・・・。
そう思うと体中が一気に熱くなる。
力がみなぎってくる。そんな気がした。
ふと真っ直ぐ観客席を見ると見慣れた顔がある。
父さんと母さんだ。
そして、その横には高橋と圭介が座っている。
もちろんその近くには・・・。
彼女がいた。
カメラの向こう側ではなく、俺の目の前にいた。
俺を真っ直ぐ見つめて何かを俺に伝えてくれている。
『翔太君』
この瞬間。
俺は浮かばなかった最後のフレーズが、今ようやく降りてきた。
『ありがとう。翔太君』
俺は目を閉じ曲に身を授ける。
瞼の裏にはまだ君の姿が鮮明に写っていた。
この歌は君だけに作った歌。
君だけの歌。
君に贈る歌。