【完】君に贈る歌
最後のフレーズを歌い終わる時、俺は真っ直ぐ立花を見つめた。
「二人の距離を重ね合わせて夢に誓おう」
そう歌い終わり俺の曲は静かに終わった。
会場はしんとしている。
そして、立花は一筋の涙を流し優しく微笑む。
思いだしたかのように会場は盛大な拍手に包まれる。
俺は全てをやりきった。
「いやぁ、すごいとしか。素晴らしいとしか言いようがありません・・・!何か言いたい事はございますか??」
司会者が鼻息を荒くして俺に質問してきた。
「えー・・・。この曲はある人への想いだけを頼りに、俺の今までの気持ちを綴ったものです。この番組を見て俺の歌を聞いてくださった方、この会場で聞いてくださった方にそれが伝わればいいなと思います」
本来歌った後はすぐにステージを出なければならない。
しかし、司会者は予定を変更して俺の言葉を待ち続ける。
「これは"君に贈る歌"です。聞いてくれてありがとう」
彼女にしか分からない。
知っている人にしか分からない言葉を言い残し、俺はステージを去った。
司会者は慌てて今の言葉の意味を理解しようと何かを言っているようだ。
俺はくすっと笑い楽屋には寄らず会場を出た。
もう優勝が誰とか、特別賞が何がとか俺には関係ない。
目の前で俺の歌を彼女が聞いてくれた。
それだけで十分だ。
それだけで・・・。