【完】君に贈る歌


**



「はい、これ皆の分の座席チケットよ」


車を降りた後、助手席に乗っていた女の人が私たちに一枚ずつそれを渡してくれた。



受け取ったチケットを確認してみると『生放送!!素人ガチ歌決定戦~優勝は誰の手に?~座席チケットF-15』と書いてあった。


私はこれを見て全てを察した。


「・・・!!!」



慌てて小沢君の方を見つめた私。


でも小沢君は優しい笑顔だけを向け、何も言ってはくれなかった。




「じゃあそろそろ入ろうか」


男の人がそう言って芽衣子ちゃんや女の人、小沢君が動き出す。


でも私だけは動けなかった。


ううん、動かなかった。





「桔梗?どうしたの?」


芽衣子ちゃんが気付き私の方を振り向く。


私は精一杯そこで頭を横に振った。





『私は行かない』


『私は行きたくない』


『翔太君に会いたくない』



全て声に出して言いたかった。


でも声なんて出るわけもなく。

必死に体で主張するしかなかった。
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