【完】君に贈る歌
「立花桔梗ちゃん、だったわよね」
「・・・?」
女の人が近づいてきて、私に声をかけてきた。
「圭介君には黙ってろって言われたけれど、自己紹介するわね。・・・初めまして。私は橘翔太の母親の立花咲-タチバナサキ-です」
この女の人・・・。
翔太君のお母さん!?
誰かに似ている気がすると思っていたのはもしかして翔太君だったってことなの・・・?
女の人のあと続いて男の人が近づいてきた。
「・・・初めまして。俺は翔太の父親で橘正之-タチバナマサユキ-と言います」
私はさっきまで思っていたことをもし口に出していたらと思うと、この二人がどんなに悲しい気持ちになったのだろうと思ってしまった。
翔太君に会いたくないなんて。
そんなこと言われたらきっと・・・。
ううん。
そんなことより。
翔太君の両親はあまり仲が良くないって聞いたけど、今そんな雰囲気微塵も感じない。
離婚寸前とか、お母さんが浮気してるとか、お父さんは仕事人間だとか。
そんな風にも思えない。
「お願い。息子の歌をどうか聞いてあげて?」
ふいにそう言ってきたのは翔太君のお母さんだった。
「翔太は君を本当に想っている。気持ちを受け止めなくてもいい、ただ一度だけあいつの心からの歌を聞いてやってほしいんだ」
翔太君のお父さんも私にそう言ってきた。
それから二人は私に頭を深く下げる。
「・・・!?」
私は慌ててノートに『頭を上げてください!!』と書いた。