【完】君に贈る歌
**
「ありがとうございました!!次は・・・」
歌番組が始まり、順に出演者が入れ替わっていく。
やっぱり出られるだけあって皆とても上手い。
私もこの番組に出られたかどうかは今となっては分からないけど、相当難しいと思った。
でも心を揺さぶられる歌を聞けることはなかった。
いくら音程やリズムがあっていても、ビブラートや高音低音が綺麗に出せたとしてもそれとは別の部分に揺さぶられる歌が本当に上手い歌だと私は思う。
そんなことを考えているうちにこの歌番組も終盤を迎えてきているらしい。
しかし、一向に翔太君が出てこない。
また一人と曲が終わりどうやら次で最後の様子。
「ありがとうございました!!いやぁ素敵な歌でした。素人さんだとは本当に思えませんね!!では審査員の方に得点をつけてもらっている間に・・・最後の方をご紹介いたしましょう!!」
ステージのライトが派手に入れ替わる。
まさに最後のトリにふさわしい演出がステージ上を包み込んだ。
「最後の方は橘翔太君。高校二年生!力強くも切なく儚い歌声に注目!また、作詞作曲全て自分で行ったとのことです。期待が高まりますねぇ・・・。では審査員の方の得点付けも終わったようなので、ご本人に登場していただきましょう!!」
ワァーっと観客の声がスタジオ内に響き渡った。
奥から翔太君が出てくる。
久々に見る彼の姿。
私は翔太君の姿を見るだけで胸がきゅうっと締め付けられた。
「では、歌っていただきましょう。橘翔太君で『君に贈る歌』」
"君"に贈る歌。
・・・翔太君はもしかして。
『ありがとう』
『ありがとう翔太君』
私は翔太君には見えないようにそう呟いた。
翔太君は私を真っ直ぐ見据えた後、目を閉じて音を一つずつ紡ぎ始めた。