【完】君に贈る歌
「この事は俺と翔太だけの秘密だから・・・」
そう言って分かれ道で手を振った圭介の姿を見送り、俺も自分の家へ歩き始めた。
・・・別に音痴な事くらい知られてもいいのに。
俺は何故こうも隠したがるのだろう。
「・・・ああ。あの時からか」
思い出した。
俺が隠したがる理由。
あれは多分三年前くらいの事。
俺は中学二年生で、まだ家族も今のようにはなっていなかった頃。
それまでに何度か女子から告白をされてきたものの、自分の気になる女子と付き合った経験はなかった。
名前は・・・なんだったっけな。
忘れたけど、とにかくその子から告白されて俺は即OKした。
その子は音楽が三度の飯よりも大好きで、将来歌手になる事が夢だと聞いた覚えがある。
『橘君の声が好き』
だから好きになったんだと教えてもらった。
カラオケルームの中で。
俺はこの時まだ自分が極度の音痴だと言う事に気づいていなかったから、普通にマイクを握り締め彼女に愛の告白ならぬ恋の歌を贈ろうと子供ながらに思った。
『・・・帰るね』
そう言われたのは俺が歌いだしてまだ20秒もたっていない時。
俺自身、なぜこんなにもひどい歌が歌えるのかと思ったほどだった。