【完】君に贈る歌
もちろん俺の恋はあっけなく散った。
連絡が取れなくなり、学年があがってクラスも離れ、高校にあがったら全く違う学校にも通い始めたから。
それから誰かに歌声を聞かれるのがトラウマだ。
あとは・・・それがきっかけで俺は一度道を間違えた。
圭介にも言っていない過去が俺にはある。
中学三年生。
一番消したい過去だ。
「本当馬鹿だよなぁ」
「何が馬鹿なの?」
「うわ!?」
いつの間にいたのか、目の前にはカラオケの中で一緒だった女子が立っている。
確か俺に質問をしてきた子だ。
「えーっと・・・高橋・・・さんだよね」
「うん!今日初めて橘君と話すのに名前覚えててくれたんだ」
「下の名前は・・・ごめん」
「いいのいいの!あらためまして!あたしの名前は高橋芽衣子-タカハシメイコ-よろしくね」
目の前に手を出され、握手を要求される。
俺も黙ってその手を握った。
「あのね、あたしあんたに言っておく事があんの!」
ふわっと風あおられて、高橋のショートボブの髪がさらさら揺れる。
「立花桔梗はあんたに絶対渡さないから」
「はい?」
思わぬ宣戦布告に俺は何も言えなかった。
橘君からあんた呼ばわりされた時点で、嫌な予感しかしなかったのは間違いなく正解だったようだ。