【完】君に贈る歌
「橘君」
「・・・あ」
ふいに立花に呼ばれて我にかえった。
「た、立花お前・・・」
「貴方になら、歌、聞いてほしいって思った」
一言ずつ言葉を紡ぐ。
優しくて包みこんでくれそうな声。
立花が歌を聞かせてくれて、俺と話してくれて嬉しいはずなのに言葉が出ない。
「今日は、気分いいから、もう一曲」
そう言って立花は歌い始めた。
高橋にも聞かせていない二回目の歌声。
どうして俺なんかに聞かせてくれるんだろう。
何故、立花の歌は俺の罪を洗い流そうとしてくるのだろう。
「・・・」
俺が俺を許せない代わりに、立花は俺を許してくれた気がした。
俺の過去を知るわけでもないのに勝手にそう思った。
立花の天使の歌声を聞きながら、俺は目を閉じた。