【完】君に贈る歌
「あーもう、小沢君がいると勉強もままならないね。あたし飲み物でも買ってくる。桔梗も行く?」
「あっいや・・・俺がついてくよ!ちょうど喉乾いててさぁ!」
高橋の言葉にすかさず圭介が食いつく。
きっと俺と立花を二人きりにしようと思っての言動だろう。
「はぁ?あたしはあんたと少しでも離れたいから飲み物買いに行くって言ってんのに、あんたがついてきたら意味無いでしょ!」
「文句言うな!行くぞ!」
「ちょっ痛い!離してよ!」
強引に立花の腕をひいて教室を出る圭介。
扉の前で軽く俺にウインクをしてきた。
「さっさと行け」と口パクで言うと、あいた方の手で親指を立てて出ていった。
元々俺達四人しかいなかった教室が更に静かになる。
圭介の思惑通り二人きりになった。
立花はそれに気付いたのか、一瞬俺と目が合ったが顔をほんのり赤らめてすぐに勉強に集中しはじめた。
「分かんないところあったら聞けよ」
机の上のノートを見ながら立花はこくりと頷く。
俺はそれが少し面白くなく、腕を伸ばしそのまま手で立花の顎をくいっと上げた。
「・・・!?」
さっきよりも明らかに赤くなる顔。
頬は紅潮し、目は少し潤んでいるようにも見える。
蒸し暑い教室の中で窓から通る風と、教室につけられた扇風機の音だけが響く。
「キスでもする?」
俺の一言に立花は静かに頷いた。
「・・・素直だな。でも、今は机が邪魔だからやめとく」
立花は期待でもしていたのか明らかにがっかりという顔をした。
俺らはいつか本当にするのだろうか。
愛のないキスを。