【完】君に贈る歌
夏休みに入ってから俺らは色んなところをデートした。
映画館、遊園地、水族館。
思い出の物もたくさん買った。
どんどん距離が近づくような感覚。
だけど実際は一定の距離を歩いている。
俺は立花の事を一線引いて見ているから。
「翔太君・・・こっち!」
「おう」
だけど立花は俺の事を信頼してきてくれている。
それは手をとったように分かる。
ある時こんな話を打ち明けてくれた。
「私が・・・なんで全然喋らなかったのか。知りたい?」
「・・・教えてくれるのか?」
「翔太君になら」
「無理に話さなくてもいいよ。俺は別に大丈夫」
「話す・・・!」
立花は一言ずつゆっくりと言葉を紡いでいった。
「小さい頃から、まわりに、声を褒められて。お父さんとお母さんにも、その調子って。歌も習わされて、最初は大好きだった。だけど、一度だけ優勝できなかった大会があって・・・」
泣きそうになりながら、言葉が少しずつむちゃくちゃになりながら。
俺に話してくれた。
立花は小さな頃から自分の声を周りの大人たちに認められていた。
両親もそのうちの一人。
歌のレッスンをするようになり、立花自身も音楽が好きになっていったらしい。
どの大会に出ても優勝を得ていた立花が、ある時初めて二位をとった。
その時、立花の両親は立花を捨てた。
頂点をとって当たり前。
なのに頂点を取れなかった立花。
立花は親せきをたらいまわしにされ、何度も転校をしてきたらしい。