【完】君に贈る歌
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「・・・こんなとこでごめんな」
「う、ううん」
濡れるのを最小限に減らすためには今俺達がいるこのラブホテルに入るしかなかった。
もちろん未成年は利用禁止だが、受付に人がいないことと監視の目があまりきつくないため簡単に入る事ができた。
まぁほとんど圭介の受け入りなんだけど何気なく聞いておいてよかったと思っている。
俺も利用するのは初めてだけど少し独特な雰囲気で、本当に恋人たちの為に作られたような内装だ。
「緊張しなくていいから。俺、別に何もしないし」
「・・・うん」
「浴衣濡れて気持ち悪いだろ?風呂入ってこいよ」
立花は頷いて風呂場に入っていった。
俺はベッドに座り一息つく。
たった今風呂に入ったばかりなのに、立花が出てくるのを今か今かと待つ自分がいた。
「・・・なんだよ」
立花が隣にいる事が当たり前になってきている。
いいことだ。
だって恋人同士なんだから。
なぁ、"さやか"。
俺は答えを見つけだす事はできなかった。
立花と一緒にいると、さやかを忘れる事ができる。
今身にしみて感じた。
仕事人間の父さんと浮気人間の母さんを嫌う俺の気持ちも、学校や休みの日に立花と会うだけでなくなった。
このまま、立花を本気で好きになったらどうなるのか。
そんな事を一瞬だけ思ってすぐに頭の中から消す。
「ごめん。さやか・・・。俺にはお前の罪だけあればいい」
立花をこれ以上俺の心に近づけてはいけない。
好きになる前に、嫌いになってもらおう。