【完】君に贈る歌
「橘君・・・」
「"翔太"って呼んで」
「わかった・・・」
「"さやか"。今日だけ俺らは恋人だ」
「・・・今日だけ?」
「割り切りがいい。駄目か?」
「駄目、じゃない・・・。貴方に抱かれるなら今日だけでも」
俺は北山を"萩本さやか"と重ねて抱きしめる。
そして壊さないように何度も色んな場所にキスをした。
北山と"さやか"の見た目は全く異なっている。
でも今俺の腕の中にいるのは"さやか"なんだと錯覚した。
俺も場と、自分の欲に惑わされているのかもしれない。
それを知りながら俺は何度も名前を呼んで、欲した。
しかし、どんなにキスをしても抱きしめても俺の心が満たされる事はない。
何度繋がって一つになったとしても性欲が収まるだけで、心は満たされなかった。
快感が絶頂を越した時でさえ俺の頭の中には"さやか"でも北山でもない、"立花桔梗"の顔が浮かんでいた。
「・・・」
全ての行為が終えた後、北山が風呂に入っている間に金をベッドの上に置いて俺はホテルを出た。
生温かい風が吹き俺を責めているようにも感じる。
俺は静かに一歩を踏み出した。