【完】君に贈る歌
◇声失症
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「ほら、入ろうよ橘君」
「やっぱ俺いい」
「何言ってんの!ここまできて!ほら小沢君も橘君引っ張って!」
「・・・別に翔太の好きなようにさせれば?ってか会わす顔がねぇんだろどうせ」
立花桔梗と書かれた病室の前。
俺は入るか否かをもう10分ほど右往左往している。
立花がもう入院して2週間もたっているらしい。
それ以上に俺は立花に会っていない。
そして・・・。
俺は圭介の言うとおり立花に会わす顔がない。
「あーもう。うっぜぇな!」
圭介が俺の背中をぐいっと押す。
「うわっ圭介やめろよ」
「ぐずぐずすんな!俺はお前の事許したわけじゃない。だけど・・・立花ちゃんが会いたがってんだよ!」
「えっ・・・」
ガラガラと病室の扉が開き、目の前に真っ白な部屋が広がった。
完全個室のベッドの中に長い黒髪の女の子が一人。
窓から見える景色を見ているようだった。
「立花・・・」