【完】君に贈る歌
「俺が会ってどうするんだよ。圭介だって知ってるだろ。・・・俺の気持ち」
「分かってる」
「とにかく、俺はまだ会わない。会えない。俺の歌を聞かせてやるまでは」
「翔太・・・」
俺は頑なに圭介の言葉を否定した。
立花とは会わない。
「ごめんごめん。そこまで言うなら分かったよ。・・・あ、そうだ。そう言えばこの前俺の母さんが桔梗の見舞いに一緒に行ってくれたんだよ」
「へぇ。帰ってきたのか」
「一時的だけどな笑。案の定桔梗の事気に入っちまってさ・・・。桔梗はキョトンとしてるんだけどそれが余計萌えるらしくて、会ったらすぐに抱きしめるんだよ。ったく、いい加減にしてほしいぜ」
圭介の笑い話にも表面上でしか笑えなくなっていた。
ズボンのポケットに手を入れている右手は力強く握りしめている。
「ついたな・・・。翔太の家。んじゃ、ここで。またな翔太」
「おう」
少しすっきりした顔で圭介は帰っていった。
俺はその姿をぼーっと見送る。
「明日退院・・・」
ぼそっと呟き俺は家の中に入る。
玄関の靴を見ると珍しく父さんと母さんの靴が揃っていた。