森はもう歌わない
時は少し遡り銃声音直後。
「なんだ今の音は……!?ここは禁猟区のはずだぞ……!」
森へ散策に来たのであろうに、初老の男は予想外の発砲音に驚きを隠せなかった。
「あなた、こっちの方からしたわ。」
男の妻であろうか、男より少しだけ若い淑女が言う。
「動物たちは大丈夫かしら?」
淑女は心配そうに呟きながら、音のした方へと向かう。草木を掻き分け掻き分け着いた所で目の当たりにした光景は予想打にしないものであった。





真っ紅な血糊が残った地面。その周りには二人の先客がいた。先客たちは老夫婦に瞬時に気付き二人を見る。
老夫婦は二人を見て暫時言葉を失う。
「う゛ぅぅ……」
先客たちは老夫婦を威嚇する。
ボサボサに伸び放題の白い髪。研ぎ澄まされた爪。これでもかと眉間に寄せられた皺。口元から見える鋭く伸びた牙。一糸纏わぬその姿。
何より、眼に迫力があった。まるで野獣のような瞳。
先客たちはどう見ても異常だった。


「狼人間……?」


サァァァと一陣の風が吹いた。
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