ディスオーダー【短編集】

 今度は隣に置かれている黒い手帳に目をやる。

 いくら古びているといっても黒い皮のカバーは高級そうに見えるし、かなり大切にされていたモノなのかもしれない。

 周りに誰もいないし、長年、人の出入りはないようだし、状況把握のためにもちょっとくらいなら……見てもいいよね?

 後ろめたさを感じつつも、私は黒い手帳を開いて中を見た。

 その黒い手帳の中身にはぎっしりと英文が書かれており、私は自分が少しでも英語が出来ることを心の底から喜ぶ。

 完璧ではなく、英語が分かる範囲でしかないけれど、私はゆっくりと中身を翻訳しながら読み始めた。


 ──4月3日。

 ──今日もエリーお嬢様はお変わりなく、健康に過ごされていらっしゃる。早いところ、エリーお嬢様を匿うことが出来る安全で良い場所を見付けなければ……。


 最初の数ページはそんな内容か、それに似た内容が永遠と綴られており、どこかの外国人の日記なんだろうと推測する。

 どこか良いところの娘さんらしき人と、その執事……だと思われる人。何者かに追われているみたいだけど……。


 ──5月19日。

 ──ここはエリーお嬢様を隔離するためにはもってこいの場所だ。早急に表は旅館として活動する建物を建てよう。エリーお嬢様の身柄を安全にするべく、旅館のどこかに隠し部屋を造ろうと思う。人がたくさん泊まれば、目を(あざむ)くことが出来るだろう。


 ……何者かから目を欺かせるために、わざわざこの旅館を建てたんだ。あまりにも慌てているようだから、本当に早急に建てたんだろうな。


 ──8月3日。

 ──旅館は繁盛し、エリーお嬢様のお身体も良好。すべてがすべて、順調だ。このまま何もない平和な日々が続けば良いのだが。


 繁盛して、うまくいっているみたい。

 自分のことじゃないのに、どうなったのかが気になって、自分の意思とは関係なく胸がドキドキしてしまう。
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