ディスオーダー【短編集】
どうしてこんな時に限って周りに誰もいないんだ。大人って役立たずなんだ。
暑い。熱いよ。誰か助けてよ。ねぇ、誰でもいいから助けて。怖いよ。さっき役立たずって思っちゃったことに怒ってるの? だったら謝るから助けて。助けて下さい。ごめんなさい。助けて下さい。助けて下さい。
「だから言ったんだ」
僕の頭の中にさっき出会った真っ黒なあいつの声が響いた。
「太陽に焼かれちゃうよ、って。地球温暖化により人間は燃えやすくなっているんだからさ」
そんなこと知らない。知らなかった。僕は知らない。熱いよ熱いです僕を助けて下さい!
「お前を助けることなんて出来ないよ。だって俺はお前。焼かれちゃったんだもん」
知らない知らない知らない!
助けて助けて助けて熱いよ熱い死んじゃう熱い暑い死にたくない死にたくない暑い死にたくない熱い助けて!助けて!
「助けっ──っ!」
口を動かすと熱さによって燃え爛れた唇が痛くてこれ以上は動かせない。声が出せない。
「身体が拒否反応を起こしたのは、こうなることが分かっていたからなのかな」
熱さと痛みと恐怖のせいで、頭が頭の中のあいつの声を理解してくれない。
刹那。
ぱーんっ!
頭の弾ける音がした。
「さよなら。マサキ」
それが、僕が最期に聞いたあいつの……人間の、声だった。
──数十分後、たまたま通りかかった日傘を差した女性により、頭の先から足の先まで真っ黒な色をした少年の遺体が発見された。
END.