ディスオーダー【短編集】
12 → 押し入れ
「──絶対にこの中を覗くなよ」
部屋に入ってすぐの出来事だった。
いつになく真剣で真面目な眼差しをした親友のコウタは、まるで忠告するようにそう言いながら自分の部屋の押し入れを指差す。
いくら親友といえど人様の家の押し入れを勝手に開けて見るなんてことはしないし、そんな趣味は俺には無いけど、あまりにもコウタの気迫がすごいから、俺は純粋に疑問に思った。
「なんで?」
「いや……。まぁ……うん……。……と、とにかく!開けるなよ?! 絶対に、開けるなよ?!」
「分かった、分かった」
コウタは開けてはいけない理由を説明してはくれず、代わりに歯切れの悪そうに念を押してくるだけ。
まあ……親友にさえ隠したいことのひとつやふたつは、誰にだってあるわな。俺もコウタに対して隠しごとは無いとは言いきれないし。
「……親友をやめてもいいって言うなら、見てもいいけどな?」
「分かった、見ないって」
親友をやめてもいいとかは思ってないけど、そうなってもおかしくないくらいのことが押し入れの中にあるってわけだな。
うーん、エロ本とかか?
そりゃあコイツだって男で、いい大人なんだから、そういった類のモノは少なからず持っているだろうけどさ……。
俺も男なんだし、何も隠す必要はないのに。
──そんなことを考えていたのは最初のうちで、俺は時を忘れてコウタと一緒に遊んだ。
遊んでいたら押し入れのことも忘れていき、やがて日も暮れ始める。すると、不意にコウタは立ち上がった。