ディスオーダー【短編集】


「ちょっと、トイレ」

「おう」


 トイレで用を足すために部屋を出たコウタの帰りを、気晴らしのためにも寝転がって待つことにした。

 仰向けに寝転がって視界に飛び込んできたのは、コウタが散々「開けるな」「覗くな」と念を押してきた押し入れの襖。

 時間が経つのも忘れて遊んでいたのは事実だけど、こうして押し入れの襖に意識を戻してしまうと……。

 気になるのは、事実なわけでして。


 あんなにも真剣に何度も念を押されると、その分だけどんどん押し入れの中身が気になっていく。

 しかも、最終的に親友をやめるかどうかまで規模は発展していた。コウタと親友をやめるつもりはやっぱりないけど、そうなるかもしれない押し入れの中身って……一体……?

 親友の俺より大切で、俺を含む誰にも見られたくないものが、中にはある……?


 一度気になってしまったら最後。押し入れの襖を開けてみたくなって仕方がなくなった。この目で中を見てみたくなって仕方がなくなった。自分の中でその思いはどんどん肥大化していって、仕方がなくなった。

 ……少しくらいなら、見ても、いいよな?

 開けて中を確認したら、すぐに閉じればいいし。そうしたらコウタには開けたことをバレないだろうし。バレたとしても、いつもの悪ノリで謝れば大丈夫だろうし。……親友をやめるなんてことには、ならないだろうし。

 開けたらいけないと分かっていつつも、押し入れの中が気になった俺は自分の思いや欲望に従い、そして、コウタがその場にいないことをいいことに、ゆっくりと襖を開けた。


「──っ?!」


 押し入れの中に押し込まれるようにいれられていたのは、一週間前から行方不明になっている俺のオカンの死体だった。


「だから開けるなって言ったのに……」


 背後から、トイレから戻ってきたであろうコウタの声が聞こえた。


「親友、解消な」


 その手には、キラリと光る大きな刃物。
 

END.
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