ディスオーダー【短編集】
28 → 信号機
「──どうやら、世界は滅びるらしい」
運転席に座り、かれこれ20分くらいは車の運転している恋人のユキくんは、いつになく真剣な面持ちでそう言った。
重い空気を作りたくないので、助手席に座るだけの私は、場の空気を明るくしようとなるべくおちゃらけた感じで問う。
「え? なんで?」
「今朝、ニュースでそう報道されてた」
「ニュース? ……あー、アレか」
ユキくんに言われて思い返してみると、確かに、今朝のテレビでそんなニュースが流れていたような気もする。
なんでも、過去の偉い人が世界が滅ぶ予知をしていて、その予定日が近い将来だったとかいう……比較的に〝どうでもいい内容〟だったのを覚えてる。どうでもいいから、ユキくんに言われるまですっぽりと頭から抜けていた。
だってさ? 考えてもみてよ?
世界が滅ぶーって分かったところで、私たち一般の庶民には何も出来ないじゃん? 滅んでいく様を、ただ眺めていることしか出来ないじゃん?
世界が滅ぶとか滅ばないとか、私にはどうだっていい。それまでの人生だったっていうこと。ただ、それだけのことよ。
それにしても、ユキくん。
そういう話を信じる人だったんだ。
恋人の知らない一面を新たに知れるのは、いいことよね。嬉しくて、ユキくんにバレないよう、ひとりでほくそ笑む。
もっと色んな一面を知りたくて、会話を続けた。
「ユキくん、どうして急にそんな話を?」
「うん……マナちゃんはその時、誰とどこにいて、何をしているのかな? 何をしようとするのかな? ……って、思ってさ」
私が誰とどこにいて何をしているのか、はたまた、何をしようとするのか──なんて、そんなこと、実際にその時になってみないと分からない。
〝終わり〟は唐突にくるのだろうだから、それが〝今〟ならユキくんといて車の中で助手席に座ったまま生涯を終えるのだろうし。それが夜の家の中なら、寝てる時に〝終わり〟に気付かないまま生涯を終えるだろうし。