ディスオーダー【短編集】
「お姉さん、どこか怪我は? 歩けるか?」
「……」
目まぐるしく起きる状況に置いてきぼりだけど、〝大丈夫〟の意味をこめて、車から助け出してくれた見知らぬ男性に向かってコクリと頷く。
周りにはたくさんの人集りが出来ていて、さっきまで乗っていたユキくんの車の側面は大きく変形していた。そのすぐ側には、前の方が大きくへこんだ車があった。
「こんなに派手に事故っているのに外傷はほぼ無しって……奇跡だよ。でも、念の為に安静にね。警察や救急車は呼んだから」
「にしても、ひでぇ事故だな……」
「赤信号なのにとまらずに突っ込んで来たんでしょう? そりゃあ、ぶつかるわよね」
「ぶつかってきた方の運転手、酔っ払っていたんじゃないのか? それとも居眠り運転か?」
周りの人は、口々にそんな会話を繰り広げている。
その会話を聞いていて分かったのは、赤信号なのにも関わらず車をとめず、私とユキくんの車にぶつかってきて事故が起きた……ということ。前の方が大きくへこんでいる車が、その事故を起こした張本人ということ。
ガタガタ、ガタガタ。身体を大きく動かさないように道の端っこで座り込んで震える私の前に、ユキくんの車にぶつかってきた犯人の運転手が姿を現した。
「だから聞いてくれって!俺は酔ってもいないし、寝てもいなければ、眠くもねぇ!交通ルールはちゃんと守っていたって!」
……何かゴタゴタと言い訳を口にしているわ。だけど、そこにどんな理由があろうと、ユキくんをあんな目に遭わせたことに変わりはないんだから、言い訳の前に謝罪をしたらどうなの? まあ、謝罪をされたところで許しはしないけど。
「じゃあ、なんでちゃんと守っているのに事故が起きたんだよ?!」
「こっちが聞きたいよ!ほらっ、見ろよ!アレ……!俺はちゃんと交通ルールは守ったって!なぁっ?!」
ぶつかってきた犯人の運転手に指を差されたところに目をやると、青の信号機のようだった。