ディスオーダー【短編集】
2 → 廃旅館
気が付いたらそこにいた。
私は、気が付いたら、そこにいた。
視界いっぱいに飛び込む雲ひとつない空に、綺麗な青色の海。振り返れば爽やかな深緑──おそらく、森。まさに、絶景という言葉が似合う場所。
まるでバカンスに来たかのような錯覚に襲われるけれど、私は自分が気が付くより前のことを、まるで覚えていない。
少しでも以前のことを思い出そうと……そして、少しでもこの辺りの情報を得るためにも、私は砂浜を歩き、周りを探索してみることにした。
今がいつの何時かも分からないけれど、日が高くて辺りが見えやすいことは、幸い中の幸いなのかもしれない。
「……」
どれくらい歩いただろう?
いくら歩いても片面は海で片面は森だったけれど、バカンスに来た気分で砂浜を歩いていたため、自分でも驚くほどに飽きはこない。むしろ本当にバカンスに来ているかのように思い始めていたから、ワクワクがとまらなかった。
しばらく砂浜を歩いていると、前方に大きな建物がそびえ立っているのが見えた。