ジュンアイは、簡単じゃない。
「…………。……32点…!」
手元にかえってきた英語の課題テスト。
予告通りにひどい点数のそれを持ち寄って。
私達3太郎は…授業の合間に、それを見せ合いっこする。
「ちょ…、力、私より酷いじゃん。」
私の32点に対して。
力の点数は………20点。
どんぐりの背比べかもしれないが、ほうっと安堵の息を吐く。
一方のモモちゃんは……。
45点。
「「「…………。」」」
確かに…全員合わせても、100点にもなりゃあしない。
「まあいい、次だ次!今はなあ、残り少ない青春を…思いきり謳歌しないと!」
最も楽観主義な力は…、
口笛吹きつつ、そのテスト用紙に何かを書き綴った。
「………?なにしてるの…?」
「…ん~?ナニって…、今からその1ページを刻もうかと。」
ニヤリと片方の口角を上げて笑うのは。
彼が……楽しいことを考えているときの顔。
息の詰まる時間から……解放される瞬間。
勿論、乗らない手はない。
「見よ、決意表明だ。」
彼が掲げた用紙には、
『ビッグになる!!』
……と、お決まりのような青春ワードが書かれていて。
「え。それはチビだから?」
モモちゃんの突っ込みもまた…、うちらの鉄板。
「そうそう、身長を……て、おいっ!」
綺麗過ぎるノリ突っ込みも……健在。
力は、名前の通り…見た目ガッチリとした男らしい体型ではあるが……。
残念、
足りない身長とそのゆる~い性格のためか、イマイチ名前負けしている感は…否めない。
「あほ~、志は高くって言われただろ?……人間として…、男として…だ!」
「「……………。」」
「……虚しくなってきた……。いいからお前らも早よ書けや。」
力からペンを受け取り、私も……文字を綴る。
『瀬名くんと……』
最後には…、ハートマーク。
覗きこんだ力が、
「やらしいぞ、きん。」
失礼な一言。
「どっちがよ、乙女の気持ちを覗き込もうだなんて…デリカシーの欠片もないんだから!」
それから、モモちゃんも…迷いなく、ペンを走らせる。
『どっかの大学に合格。』
「……。堅実だけど、漠然~……。」
「夢がねえな。」
「さて……、と。」
力は3枚が揃ったのを確認して。
自分のものを……真ん中から半分に折り始めたった。
「何するの…?」
「俺らが小さい頃に流行った歌があってさ。それを…実践。」
「………?どんな歌?」
「テストの裏に…夢を書いてさ。紙飛行機にして……飛ばす。」
「ちょ…、飛ばすの?!」
「……おう。……大丈夫!廊下側の窓から飛ばせば、裏庭だし…誰もいやしねーよ。それに見られた所でどうせ俺らのだし?今さら、こんなおどろきゃしないって。」
「………。それもそうか…。」
「運試しだよ。一番遠くに飛ばしたヤツには…運がついてるってことで。」
下らないことだと解っていても。
退屈するのは…大嫌い。
力の子どもじみた発想は、気持ちいいくらいに私の心に沿っていて。
多分……モモちゃんもそうなのであろう。二人頷いて…、黙々と紙飛行機を作り始める。
3つの飛行機が…
窓際に並ぶ。
「また何か始める気だよ…。」
ギャラリーも数名。野次馬のようにして…背後を囲む。
「………。その歌歌ってる人、『19』って言うんだけどさ…。俺らがその19になる頃って……皆バラバラになってるじゃん?歌の歌詞を考えると…、感慨深いよなあ。なあ、いつか再会したときに、この夢叶えてるかどーか……ちゃんと覚えとこーぜ。」
「モモちゃんくらいかもねえ、叶えられんの。
」
「…わかんねーぞ、きん。人生は奇想天外。そうじゃなきゃあつまんねーし!」
「……だね。」
「……投げる先は……『明日へ』!」
「「……………。」」
「………。歌詞のパクリだ。いーから、いくぞ………、3・2・1………!」
ふわりと風に乗って。
紙飛行機が……高く、高く、飛んで…!!
…………
…………!
……………いかな~い!!
私の飛ばした飛行機は、見事に空中を回転し……
よろりよろりと、風に弄ばれながら……
ゆっくりと落下していった。
「…………。夢もロマンもない……。」
ずっとその行方をたどっていくと……。
窓の直ぐしたにある、木の陰に隠れて…見えなくなった。
「……あーあ、私のも大して飛ばなかった…。」
モモちゃんの飛行機は、裏庭の芝生の上へと…着地。
「………俺の勝ちだな。」
力の飛行機だけ、しばらく低空飛行して……
一番遠くへと、飛んでいった。
運がついているのは…、力だ。
ギャラリーから、パラパラとまばらな拍手が贈られる。
………と、
その時だった。
「「「………ん……?」」」
裏庭を歩いていた一人の生徒が……、モモちゃんの飛行機を…拾い上げる。
用紙を開いて、その人はしばしその場に留まるけれど…。
次の瞬間に、不意に……こっちを見上げた。
反射的に…
私達はしゃがみこんで……、身を隠す。
「今の……瀬名くんじゃなかった?」
心臓が……とかとかと、音を立てている。
ジャージ姿の…セナくん。
何でこの時間に……あそこに…??
「……瀬名…だったな。」
「……見られちゃった♪」
決して高くもない点数も、夢までもを見られてしまったハズのモモちゃんは……、呑気にテヘ顔。
「………私…、取りに行って来る!」
「……え。」
「だって、まさかよりにもよってセナくんだし……!!さすがにまずい!」
私がそう言うが早いか、
「次の授業始まるって~!!」
モモちゃんがひき止めるその声を聞き流して。
一目散に、廊下を…駆けていった。