ジュンアイは、簡単じゃない。
無事裏庭につく頃には…、次の授業の予鈴が、鳴り響いていた。
3階へと視線を上げると、モモちゃんと力が…こちらに向かって、手をひらつかせていた。
『どの木だっけ?』
ひとまず、そんなジェスチャーを送って。周囲の木を順番に指を差しては…、二人の反応をうかがう。
大きな一本の欅の木を差した時……。
モモちゃんが、こくこくと大きく…頷いた。
「…………!!!」
……が。
その木の下には…、
私に背を向ける…一人の生徒の後ろ姿が。
幹の陰から……しっかりと見えていた。
後ろ姿でも…わかってしまう。
『セナくんだ……。』
おそるおそる一歩近づいた所で。
「……ん?」
足元の、違和感に……気づく。
ひょいと足を上げると。
丸めこまれていたであろう紙が…ペシャンコになって、姿を現した。
破れた箇所から、文字が…見えていた。
「………。モモちゃんの…字…?」
そこは…誰もいない裏庭。
そう。
私と、彼以外は………。
「………これ…、もしかして…彼が…?」
明らかに人の手によって…しわくちゃにされたかのような形跡。
急いでそれを拾い上げると……
ブレザーのポケットへと、押し込めた。
「……まさか……、ね。」
気を取り直して、再び前を向くと。
「お前らー、予鈴鳴ったぞ。早く教室に入れ~!」
頭上から、担任の…声。
モモちゃんは顔の前に両手を合わせて、「ごめん」という動作をした後に……。
その場から、姿を消してしまった。
「………え。……嘘でしょ…?おお~い…、モモちゃ~ん!力~…?…………。」
反応………ナシ。
ぽつんと一人取り残されて。
これで、今度こそ………
セナくんと、本当の……二人きりに…!
大きな緊張が…私を襲ってきた。
深呼吸を二回、深く深く…施して。
少し気持ちを落ち着かせた後に。また……、近づいていく。
木の周辺に……探しているもの、それらしきものは…、落ちてはいない。
「…………。」
セナくんの耳にイヤホンがついていることに…ほっと胸を撫で下ろす。
音楽でも…聴いているのだろうか。
「……あった。」
お目当ての飛行機は、なんと…木の枝へと引っ掛かっていて。
背伸びをしても、ジャンプをしても…
先っちょに触れることさえ…出来なかった。
「……う……。どうしよう…。」
強い風がひと吹きすれば、きっと落ちてしまって。
さっきみたいに、セナくんに…拾われてしまうかもしれない。
だけど、それは……木の上。
木登りする姿など見られたら…
恥ずかしいことこの上ない。
究極の……選択だった。
本鈴が鳴っても立ち去る気配のない彼の背中に、
「……どうか……気づきませんように…!」
念を込めて。
いざ、
未知なる冒険の一歩を……踏み出したのだった。