ジュンアイは、簡単じゃない。
早起きには…ちゃんと、理由がある。
台所に向かうと、母の後ろ姿と……野菜を切る軽快なリズム。
「おはよ~。」
「あら、おはよう。………なに、その顔!」
母は私の顔を…、まじまじと見つめる。
「……?何か付いてる?」
「目の下…、真っ黒!それ……クマ?」
「………。ああ……、そうかも…?夕べ
寝るの遅かったから…。」
「……へえ…、珍しい。もしかして…勉強?」
「………。」
ごめん、お母さん。違うんです。違うんだけど……
「そんなとこ。」
………言えません。
絶対に…言えません!
「ふう~ん?まあ、いいわ。洗濯機もう回してるから…あとはよろしくね。」
「はあ~い。」
朝の金築家は、とても忙しい。
何故なら、家族分と、食べ盛りの男子校生のご飯とを……準備しなければならないから。
それから、大量の洗濯物も………。
我が金築家は、ウチの高校から委託された…下宿屋を営んでいる。
入居しているのは主に…
遠方からスポーツ推薦で入学した特待生が大半。
彼らに朝練があれば、それに合わせなきゃいけないし、家庭に代わって弁当づくりもする。
その甲斐あってか、みんな母に慕い、卒業まで退居者の出ない……人気宿舍になっていた。
少しでも、母の力になりたいと…
買って出たのは、洗濯係。
長年やってると、相手も私もなんら気にすることもなくなり……
トランクスやボクサーパンツを平気で干しちゃう自分がいた。
心を許す、その合図は…
パンツが基準だと言っても、可笑しくは…ない。
「………。お。倉橋くんおニューのボクサーじゃん。」
今日も縁側で……
そんな日常をこなす。
「………。パンツ、ね……。」
そうだ…、寝不足の原因は……そこにある。
憧れの瀬名広斗のジャージを手にして浮かれていた昨夜……。
布団に入って、妄想ビジョンに突入……とおもいきや、冷静になって1日を振り返っていたら………。
そのジャージを借りるまでの、経緯いを…リアルに思い出してしまったのだ。
あれは…、モモちゃんにもらった赤い勝負パンツ。
下宿生との、ロマンスに期待してプレゼントしてくれたが……。
もちろん出番などないし、もったいないから…と言う理由で、抵抗なく…履いていたけれど。
よりにもよって……
あの、瀬名広斗に見せてしまうとは……!!
「………。過ぎたことは、仕方ない。そうだ、ジャージ……。」
別の洗濯かごに入ったジャージを持って、再度洗濯場へと戻る。
返すのが遅くなっては申し訳ないから……
乾燥機で乾かして、今日中に返そう。
頭に来ることもあったけれど、助かったのも…事実。
昨日のことは水に流して、一言……、感謝の言葉を添えて。
大人の女性は…そうじゃないとね。