ジュンアイは、簡単じゃない。
昇降口を抜けて、内履きに履き替えると。
「きん、一ヵ所ピン…外れてるぞ?」
倉橋くんが、垂れ下がった毛束を摘まんで…顔を覗き込んできた。
「ウソ、悪いけど…直して貰っていい?」
「いいけどどうやって?」
「……えーと、毛束をサイドに上げて、後ろのまとめてるところに向かって…留めてもらえると。」
「………。」
「なるべく毛先を留めてね。」
「………。めんどくさ…。」
倉橋くんは、ぶつくさ言いながらも…受け取ったピンを片手に、私の左側へと立った。
「……やりづらい…。」
そうだろうなあ。
大きなゴツゴツした手に、小さなピン。
彼が投げ込む硬球とは……勝手が違う。
「ピンは少し開いて使うんだよ?」
「そうなの?」
大きな体を…屈ませて。
真剣な……顔。
…………。
セナくんも…、倉橋くんと同じくらいの背丈かな。
でも……顔の大きさが全然違う。
顔……、小さかったなあ………。
次第に、倉橋くんの顔がぼやけて……
代わりに…セナくんの顔が現れる。
「…………。」
睫毛…長い。
ほくろが…可愛いなあ………。
形のいい唇……。
近い……、近い、近い……!!
「……おい、こら。なにニヤけてんの?」
「…はっ……!なんだ、倉橋くんか!」
「ああ?!」
大丈夫か……、私。
「………お……、瀬名じゃん。」
「…………?????!!」
倉橋くんが突然発した彼の名前に。
思わず…振り返る。
……そこには確かに……
瀬名広斗。
予想外の再会に、驚きふためいて…後ろのロッカーへと、アタマを強打する。
「何してんだ、きん?」
「………ほ…本物…?」
こっちをじっと見るセナくんを指差して…、言葉を絞る。
妄想とリアルの……融合?!
「………?あれ?お前ら、知り合い?」
「………。知らない。……誰?」
「は……?」
『シラナイ。…ダレ?』?
昨日の今日で……
あんなに強烈な出来事だったのに…
覚えてもいないの?!
「じゃあ、きん。先に行くわ~!」
倉橋くんは、何のフォローもなく…セナくんと肩を並べて、さっさといってしまった。
「…………。なんっじゃありゃあ~!!!」
べコン!!と……ロッカーが鈍い音を立てる。
「………。……金築。お前こそなんだ?」
「……………。あは、なんでしょう……?」
凹んだロッカーを撫でながら…
生活指導の塚本先生が、ギロリと睨む。
「……。3階職員室に…直行!!」
「そ、そんなあ~……!」
踏んだり蹴ったりとは…
まさに、この事である。