ジュンアイは、簡単じゃない。







夕飯の準備を手伝いながら…。



忙しく動き回る母を、私はじいっと……見つめていた。








「ねえ、お母さんはさー…、お父さんのどこが好きだったの?」



「はあ?何よ、唐突に。」




「だって、あんなに無口でさー、口を開けば説教ばかり。一緒にいたら息が詰まるでしょ?」



「まあね~…。」



「お母さんだったらもっと優しいいい人に出会えただろーに…。」




「……………。」




母は少し首を傾げて、それから…食器を洗うのをやめると。




濡れた自分の手を…、私の頬にピタッと…くっつけた。



「……ひゃ…、冷たっ…!」



「………。『冷たい』?」


「………?……え?」


「本当に?私、今……お湯を使ってたんだけど?」



「……………。」


あれ………?そうだった?






「先入観。……固定観念 。……分かりやすく言えば…思い込み。私はお父さんが優しくはないだなんて、思ったことはないよ?」



「……………。」




「誰しも、人の心なんて、分からない。他人の物差しでは……測れない。だけど……、だからこそ、その人の真意が見えた時の感動は……忘れられない。」




「………つまり……どういうこと?」



「自分の中だけに閉じ込めておきたくなった。それが……結婚した理由。」



「………そうじゃなくて…、好きになった理由を聞いてるんだけど。」



「………。今のじゃ答えにならない?」




「……………。」




「特別なきっかけがあった訳じゃない。一緒に過ごすなかで…築かれたものだし。理屈じゃないから、言葉で説明なんて…できない。」



「……そう……。」



「不満そうな顔。納得してないね?でも……、仕方ないのよ、そんなの、人それぞれだし。」



「……………。」



「自分にしか出せない答え。何を悩んでるのかはしらないけど…、私に聞いた所で、なんの解決にはならないよ?」



「…………。」



「私は……アンタじゃない。それに。……瀬名くんは…お父さんじゃないんだし。」



「そうだよね…。そうなんだけどさー……。………ん……?」



今……さらっと…




「せ・な・くん♪」








………………?!




「な……何故それを…?」




「昨日の夜、洗濯場で見つけちゃった♪ひとつだけ違うカゴに入ってたし、誰のかなあって思って名前をみたら…知らない名前だったから。……アンタの…想い人?」



迂闊だった……!



「……違います。……いけ好かないヤツだもん。好きになんて……ならない。」



「なんだ、つまらないな。ゆなにもようやくそういう人が現れたんだって…ぬか喜びしちゃったわ。」



「それは……残念。」



「ま、気長に見守るか……。ほら、ゆな!お父さんにお膳あげてきてちょうだい。」


「はーい。」
















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