ジュンアイは、簡単じゃない。
……が、
「………あ?」
一歩部屋の外へ出た瞬間に……
思いもがけない衝動に…出くわす。
何故なら、目の前に……
瀬名広斗が…立っていたのだから。
「……………。………ま、間違えましたー……。」
後退りして、1度部屋へと……閉じ籠る。
「……って、ここ、家だから!!」
我にかえって、再びドアを開けると……
「アラ…。ゆな、お帰りなさい。」
やっぱりそこには瀬名くんがいて…、その、大きな身体の後ろから…
母がひょっこりと…顔を出した。
「ちょうど良かったわ。来週からこの部屋に住む…瀬名広斗くん。それから…、瀬名くん。この子が私の娘の…ゆなよ。」
は……?
今……。なんと?
あたふたする私とは、対称的に……セナくんは妙に落ち着き払っていて。
「どうぞ、よろしく。」
至って普通に……挨拶してくる。
「二人は知り合いだったかしら?」
セナくんの陰に隠れて、母は意地悪な質問をぶつけてくる。
「………初対面です。セナくん…でしたっけ、どうも。」
「……………。」
険悪なムードが……漂っていた。
母はイチ早く感じとったのか、その空気を払拭させる為に…、にこりと笑って。
私達の間へと…割り込んできた。
「そうだわ、セナくん!せっかく来てくれたんだから…夕飯でも一緒に食べていったら?!みんなにも紹介したいし…。」
「いえ。せっかくですけど、これからバイトがあるので……。」
「え~……。」
「お母さん、どうせ来週なんてすぐじゃない。忙しそうだし無理言って駄目だよ。」
「………。アンタだってそうしたいクセに。」
「……。今なにか?」
「いいえ。こっちの話よ?」
全く…、油断も隙もあったもんじゃない!
「じゃあ俺は、これで失礼します。明日にでも父が契約に来ますので…、来週から、よろしくお願いします。」
セナくんは、母にペコリと頭を下げて…
私に目をくれることなく、階段を…下り始める。
「………。ゆな、アンタが見送りなさい。」
肘で突っつかれて…。私もしぶしぶと後を付いていく。
この展開に…、思考が追い付いてこないけれど。
セナくんの広い背中が……
憧れだった後ろ姿が……
目の前を歩いていて。
徐々に…現実味を帯びてくる。
玄関について、お互いに無言のまま……。
靴をはいたセナくんが、ついに…こちらへと振り返った。
「………。見送り?」
「………別に。母に言われたから…仕方なく。」
「そう。まあ…、そうだろうな。今さら仲良しごっこもない。」
………可愛く…ないっ!!
「一緒に暮らすことにはなるけど…これから一切、俺に干渉するな。俺は俺で勝手にやるから…余計な詮索も、学校で話しかけるような真似も。」
「……。お言葉だけど、ここは…我が家なの。最低限 のルールくらいは守って貰うし、…場合によっては、干渉せざるを得ないことだってある。あんたに興味はないけど……そのくらいは頭の中に入れててもらわないと、他の下宿生との共同生活が…おかしくなるから。それに同意出来ないなら…、まだ間に合う。やめておけばいいよ。」
「…………。優位に立ったつもりか。」
「はあ?!」
「猿にもそんな度胸があるんだな。」
「……………!また猿って……!ちゃんと名前があるんだから、その呼び方…やめなさいよ。」
「知ってる。『3馬鹿3太郎』だっけ?」
「……………!」
むむ……、友達には知らないっていいながら…
結局、知ってるんじゃないか!
「それとも、キンタローだっけ?」
「『きん』よ!ってか、それはあだ名で……。」
「………。あ、そう。」
「………。………意地悪過ぎる…。人をからかってそんなに楽しいの?」
「………。さあ。ただ……、いちいち反応がおかしいだろ?見ている分には…楽しいんじゃないか?」
認めた…!!
認めやがった!!
「ただ、関わりたいとは…思わない。他に質問は?」
「………ありません!」
「そう。」
また、とも言わずに…彼は私に、背を向ける。
玄関のドアに手をかけて…
その、扉を開いた途端に。
ドンと…
大きな音がして。
目の前が…
真っ暗になった。
開いたドアから、急き立てるような雨の音と…
激しさを増した、雷鳴が…
鳴り響いた。