ジュンアイは、簡単じゃない。





居間にカセットコンロを設置して……



火を着けると。







「じゃあ……後は肉をいれるくらいだから。」




セナくんはそういって。


捲り上げていたブラウスの袖を…元に戻した。





「………。一緒に…食べないの?」




「体育会系の食事にしたら、足りないくらいだろ。」


「でも……。」



「まだ、居て欲しいと?」


「……………!いや……、もう…大丈夫。」







気づいて欲しくもない心情ばかり…

読み取るだなんて。


天才の頭は…何て都合がいいの。







今度こそ、本当に…


玄関へと、見送りに出る。





「まだ…雨が降ってるね。…大丈夫?傘は…?貸そうか?」



「アンタは自分のこと心配したら?アンタに借りを…作りたくはない。それを理由に付きまとわれルのも嫌だしな。…じゃあ。」





「…………。バイバイ……。」








暗闇に吸い込まれるように…、セナくんの姿は、見えなくなった。






「…………。静かだな………。」



さっきまでなんだかんだ言い合っていたから……

賑やかだった。







「………。大きな…背中だったな、あの人に負けず劣らず…。」



気づけば、私の背後に……


母の姿。





「駄目じゃん、ねてなくちゃ……、……て、ん……?」



どうやって…ここまで?






「おんぶなんて、いつぶりだろう…?」




「………。おーかーさ~…ん…?」




「だって、一緒に生活する子なんだもの。いざって言うとき…頼りにならなくちゃ♪停電には驚いたけど……いい男じゃない、セナくん。ぶっきらぼうで…可愛い。」


「酷いじゃない、騙すだなんて!」



心配したのに……、不安になったのに…、



どれだけ、神経図太いの?!



「………。ちょっとね、興味深かったのよ。我が娘の旦那さんになる人かもしれないでしょう?最低限の試験かな。」


「……は?!誰がセナくんと結婚だなんて…!そんな、おこがましいこと…考えてもないし!ってか…無理、あんな冷血漢…あり得ない。」



「そう?楽しそうだったし、案外…似合ってたけど?」





そんな……馬鹿な。








そう、思うのに……




さっきまでの自分が、一体どんな顔をしていたのかは……



容易に、想像できる。


暗闇で…見えないことをいいことに。



どれだけ、嬉しかっただろうか。






間違いなく、彼がいたから…



私は、笑っていられたのだ。







「………。お母さん、鍋…ちゃんと見ててね。」



「……。ええ。アンタは……何処に?」




「決まってるじゃない。」



「……そう、……気を付けて。」









母の悪戯っ子みたいな笑顔が……



ちょっとだけ、ありがたかった。













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